企業が何らかのITシステムを導入する際に、クラウドでの導入を優先的に検討する“クラウドファースト”な考えが浸透しています。
その中でも特にクラウド優先志向が高い領域が“電子メール”と“ファイル保存”です。経済産業省が発表した平成29年版情報通信白書(平成29年版 情報通信白書 第2部 基本データと政策動向 第2節 ICTサービスの利用動向)によると、クラウドの利用内訳は電子メールが51.7%と最も高く、ファイル保存が50.7%で続いています。
今回はファイル保存に焦点を当てて、クラウドとファイルサーバーの違いについて説明します。
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クラウドとは?
クラウドはブラウザ経由で提供されるサービスの総称であり、そのカテゴリによってSaaS・PaaS・IaaSと分類されています。
通常はパソコンやサーバーにインストールして使用するソフトウェアをサービスとして提供する、それがSaaSです。またはASP(Application Service Provider)とも呼ばれますが、最近ではSaaSと呼ぶことが一般化しています。
アプリケーションを開発するためのサーバーとOS、ミドルウェアの一式をサービスとして提供するのがPaaSです。これを利用することでシステム設計に沿ってアプリケーション開発が行えるので、開発期間を短縮して開発コストを抑えられるのが特長です。開発に集中できる環境とツールが揃っていることから、アプリケーション開発で真っ先に検討されるプラットフォームでもあります。
PaaSで提供するサービスをさらに深化させ、インフラそのものをサービスとして提供するのがIaaSです。その特徴からHaaS(Hardware as a Service)と呼ばれることもあります。
この中でファイル保存を目的としたクラウドはSaaSに分類されます。様々なサービスが提供されていますが、一般ユーザー向けのものではDropboxやGoogleドライブなどが有名ですね。
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クラウドを利用することの利点は次の通りです。
バックアップ不要
クラウドにデータを保存すると、そのデータは自動的にバックアップされます。もちろんすべてのサービスではありませんが、多くのベンダーは障害発生やセキュリティリスクに備えてサービス全体のデータをバックアップしてあります。
運用の負担削減
クラウドはブラウザ経由で提供されるのでインフラ整備は不要であり、システム運用も要りません。そのためIT人材がいない会社でも気軽にファイル共有スペースを構築できます。
導入がスムーズ
インフラ整備が不要ということはサーバー設置やソフトウェアインストールなども要らないので導入が非常にスムーズです。サービスを契約すればその日からデータを自由に保存できます。
アクセスの柔軟性
クラウドではアカウントIDとパスワードがあればサービスにアクセスできるので、異なる端末からでも同じ環境が利用できます。そのためリモートワークなどでは必須ツールとされており、ビジネスの幅が広がります。
リソースの開放
既存のファイルサーバーに保存されているデータをクラウドに移行することでリソースを解放し、ITシステムパフォーマンスを向上できます。
簡単な共有
ブラウザ経由で利用するクラウドはデータを簡単に共有できます。
ファイルサーバーとは?
ファイルサーバーとはLANやWANなどのネットワーク上に設置した、データ保存やファイル共有を目的としたサーバーのことです。自分が管理しているローカルストレージをネットワーク上の他のコンピューターと共有したり、外部から利用できるようにしたり、共有目的のファイルスペースを作成するなど企業の情報共有に欠かせないITシステムです。
ファイルサーバーには様々な種類がありそれぞれに特徴があります。
「ファイルサーバーとNASの違い」もご参考にしてください。
NFS(Network File System)
NFSサーバーはSun Microsystemsが開発したLinuxなどUNIX系のOSで利用されるファイル共有システムです。データはNFSサーバーに保存され、ネットワークを介してNFSサーバーが公開したディレクトリを通じて複数のコンピューターからデータを共有できます。同じファイルを複数のコンピューターから共有できるので、ストレージの節約とファイルの集中管理が可能になります。
FTP(File Transfer Protocol)
FTPとはネットワーク上でファイルなどの転送を行う通信プロトコルの一つであり、これを利用したのがFTPサーバーです。Webページ用の各種ファイルをクライアントのコンピューターからWebサーバーへアップロードする際によく使用されます。FTPはネットワークに接続できるほとんどのコンピューターで使用できるため、色々なアプリケーションが選択できて安価に入手できるのがメリットです。
Samba
LinuxなどUnix系のコンピューターをWindowsネットワーク上のファイルサーバーやプリントサーバーとして利用するために用いるサーバーです。クライアントとなるWindowsコンピューターは、通常のファイル操作でSambaサーバーで公開されているフォルダやファイルを扱えるため、利便性が高いことから広く利用されています。
WebDav(Web-based Distributed Authoring and Versioning)
WebDAVはHTTPを拡張したものでWebサーバー上のファイル管理を目的として、分散ファイルシステムを構築するためのプロトコルです。サーバーへの認証はユーザーIDとパスワードを入力して行い、SSLデータ暗号化による送受信プロトコルやプロキシを介して通信をHTTPと同様に扱うことができます。
こうしたファイルサーバーは基本的にクラウドと同じような目的で構築されますが、クラウドと比較した際の難点は運用負担にあります。ファイルサーバーではユーザーがファイル共有スペースを快適に利用できるように、常にパフォーマンスやリソースの気を配る必要がありますし、定期的にパラメータを調整するなどの対応が必要です。
ただしクラウドに比べて拡張性が高かったりカスタマイズができるというメリットもあり、一概にクラウドを導入することが正解とは言えません。
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ファイルサーバーをクラウド化することのメリット
既存ファイルサーバーの運用に大きな負担を感じている企業は多いでしょう。そのためファイルサーバーをクラウド化する動きが数年前から活発になっています。では、クラウド化することのメリットとはなんでしょうか?
ファイルサーバーの設置スペースや光熱費を削減できる
企業にはインフラを拡張できるスペースが限られています。大部分はクラウド化が難しい業務システムなどに使用することがベストなので、ファイルサーバーをクラウド化することで省スペースになり多様なビジネスニーズに対応できます。さらに、ファイルサーバーを削減することでその分の光熱費削減にもつながります。
自由にストレージを拡張できる
ファイルサーバーのディスク領域が足りなくなった場合、スケールアップやスケールアウトといった対応によって拡張する必要があります。しかしどちらも手間と負担がかかる方法ですので、なかなか拡張に乗り出せないという企業が多いでしょう。
ファイルサーバーをクラウド化した場合、ストレージの拡張は非常に簡単です。サービス範囲を拡張したりプランを変更するだけでより大容量のストレージを使用できます。
セキュリティが向上する
クラウドの多くはユーザーが保存しているデータをあらゆる脅威から保護するために堅牢なセキュリティ対策を講じています。そのためファイルサーバーをクラウド化すること自体がセキュリティ強化につながることもあります。
このようにファイルサーバーをクラウド化することで様々なメリットがありますが、前述のように必ずしもクラウドが正解ではありません。現状と今後のニーズをしっかりと見極めた上で、最適なファイル共有環境を構築していきましょう。
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