クラウドサービスで代表的な「Microsoft Azure」と「AWS」。それぞれのサービスの概要とシェア率の比較、それぞれのメリットを、ストレージサービスとして比較しつつ解説します。どちらのクラウドサービスを選択すべきか迷っている経営者の方や、管理職の方はぜひ参考にしてください。
代表的なクラウドサービス「Microsoft Azure」と「AWS」の概要
今日では、中小企業でも新しいシステムを導入する際は、自社サーバで運用するシステム(オンプレミス)ではなく、クラウドサービスを検討することが多くなっています。
クラウドサービスでは、オンラインでデータ管理やアプリケーションを利用可能なので、自社サーバを必要としません。加えて、一般の中小企業でも専門性の高い機能とサービスが利用できるよう、汎用化も進んでいます。
このようにさまざまなサービスが簡単に享受できる一方で、各クラウドサービスの違いがわかりづらくなっている面もあります。そこで、代表的なクラウドサービスである「Azure」と「AWS」との違いをまとめて整理しておきましょう。まずは、それぞれのサービス概要を確認することからはじめます。
Microsoft Azure(Microsoft アジュール)とは
「Microsoft Azure」はMicrosoftが提供しているクラウドサービスで、「Azure(アジュール)」とも呼ばれています。まずメリットとして、同社のサービスであるOneDriveやMicrosoft 365などとの連携が容易です。
さらにアカウントの一元化も可能です。例えばオンプレミス環境でのActive Directoryのアカウントを、Azure ADと同期させれば、同アカウントで時間と場所を選ばず、さまざまなクラウドサービスの認証管理ができるようになります。
これにより、特定の企業だけが使用するオンプレミスの「プライベートクラウド」と、課金制で拡張に優れた「パブリッククラウド」の両方を取り入れた、「ハイブリッドクラウド」の構築が実現されます。
また、徹底したセキュリティサポートと国際基準のコンプライアンスを取得したことで、医療・金融・政府系などを得意分野として掲げています。
AWS(Amazon Web Services)とは
「AWS」はAmazon Web Servicesの略で、Amazon.comが提供しているクラウドサービスです。元々自社にある大量の商品や在庫を管理・分析するために構築されたものでした。2006年からAWSとしてSQS・S3・EC2のサービスを開始し、現在では190を超える国と地域で利用されています。
AWSは通信・接客・製造業など幅広い分野に対応し、利用用途が制限されることはありません。170以上存在するサービスは現在も追加され、常に最新の機能やオリジナルなソリューションを提供してくれます。
歴史の長いクラウドサービスであることから実績も豊富なため、導入候補として最初に検討されることも多いでしょう。必要なサービスだけ利用できる、ライセンス制であることもポイントです。
AzureとAWSの市場におけるシェア率を比較
シンガポールの調査会社Canalysの調査にて、2019年度のクラウドインフラ市場の成長率は37.6%と発表されました。こうして需要拡大を続ける成長率で、多くを占めているのが、AWSとAzureです。
シェア首位を占めるのはAWS。クラウドインフラ市場全体の32.3%を占有し、ユーザー企業からの出資額は36.0%増加しています。シェア2位に位置するAzureの市場全体の占有率は16.9%ですが、出資額は63.9%と急成長しているのが特徴です。長年、クラウドサービスの先駆者であるAWSが圧倒的なシェアを誇っていましたが、近年ではAzureの勢いが増していることが見て取れるでしょう。
Azureの追い上げの要因は、サポート期間が終了したWindows Server 2008からの移行や、Windows7の無償サポート延長プログラムをAzure上でのみ提供したことだと考えられます。多くのオフィスで使用されているMicrosoft製品のアカウントをそのまま利用できる点も、高い成長率を実現してきている理由でしょう。
利用メリットから違いを解説
AzureとAWSの特徴をそれぞれ把握できたところで、次は利用するメリットの違いに焦点を当てて比較してみましょう。
Azureを利用するメリット
まず一番に挙げられるAzureのメリットは、やはりMicrosoft製品との親和性が高いことです。デスクトップOS市場の9割近くをWindowsが占めていることから、現状のシステム環境からAzureへスムーズに移行できます。そのため、NTTコミュニケーションズや第一生命保険株式会社、東京工科大学など、多種多様な企業・団体に選ばれています。
また、Azure Synapse Analyticsという独自の分析プラットフォームにより、収集されたあらゆるデータを一貫して処理・蓄積することが可能です。データ分析のために独立したシステムを連携させる手間がなくなる上に、機械学習やBIツールを組み合わせればデータ管理・分析まで実現できます。
そして前述した通り、特定の業界に強みを発揮します。Azure Monitorではパフォーマンスやリソース監視だけでなく、ネットワークの監視を行えるのが特徴です。これにより、外部に漏れない高度なセキュリティの情報管理が可能となります。リモートワークへも安心して導入し得るでしょう。
もっと読む:Azure NetApp Files(ANF)とは?その概要について解説
AWSを利用するメリット
AWSにはクラウドサービス開始から10年以上、安定したサービスを提供し続けている稼働実績があります。日本の国立研究機関やCIA(アメリカ中央情報局)でも利用されるほどです。世界中に配置されたデータセンターや、それぞれの情報に最速でアクセスできるメリットを活かし、海をまたいだ事業推進などに大きく貢献します。
しかしAWSで評価されているのは、第一に柔軟性です。細分化されたサービスにより、1ライセンスの最小構成から、グローバルな大企業のソリューションへ対応できます。
また、各サービスは従量課金制です。利用した分だけ支払えばよいので、コスト削減にもつながるのです。Snowmobileというサービスを使えば、最大100 PBのデータ転送ができることも、AWSならではの強みでしょう。
また、SSL証明書の払い出しは、ACMを使用すれば無料で行えます(プライベートCAを利用する際は料金発生)。ほかにも、有効期限の監視や自動更新など、管理機能が統括的に備わっている点もメリットと言えるでしょう。
AzureとAWSの使い分けがポイント
AzureはMicrosoft製品との親和性を活かして、社内の情報システムをクラウドに移行する際や、プラットフォーム構築などに適しています。ほかの製品との連動や共有を必要とせずに、クラウドサービスを利用できる環境で、こうした作業をスムーズに行えます。Microsoftの専門的な技術サポートを受けられるメリットもあるので、利用する分野を特化するとよいでしょう。
逆にAWSは、ほかの製品との連動や共有が可能です。さまざまな機能を組み込んだフロントエンドの構築する際は、どんなシステムの拡張にも対応できるAWSのメニューの豊富さを活かせます。また、スケールメリットにより、維持コストが継続的に値下げされています。そのためコストカットにも有効な選択肢です。ただし、システム設計にはAWSのサービスメニューに精通した知識や技術力が求められるため、該当するエンジニアの参加が必要になります。
Azure・AWS・GCPのストレージサービス比較
「ストレージ」はデータを格納するメディアで、一般的に外部記憶装置を指します。クラウド上に設置する場合はオンラインストレージと呼ばれます。AzureとAWS、Googleのクラウドサービス「GCP」も含め、それぞれのストレージサービスを比較した一覧表は下記の通りです。
Azure | AWS | GCP | |
オブジェクトストレージ | Azure Blob | Amazon S3 | Cloud Storage |
ブロックストレージ | Managed Disk | Amazon EBS | Persistent Disk |
ファイルストレージ (Network File System) |
Azure NetApp Files |
Amazon Elastic File System |
Cloud Filestore |
ファイルストレージ (Server Message Block) |
Azure Files | Amazon FSx for Windows File Server |
‐ |
HPC(高性能計算)向け ファイルシステム |
Azure FXT Edge Filer |
Amazon FSx for Lustre | ‐ |
アーカイブストレージ | Storage archive access tier |
Amazon S3 Glacier | Cloud Storage Coldline |
バックアップの一元管理 | Azure Backup | AWS Backup | ‐ |
ハイブリッドストレージ | Azure StorSimple | AWS Storage Gateway | ‐ |
ディザスタリカバリ (災害時のシステム復旧) |
Azure Site Recovery |
CloudEndure Disaster Recovery |
‐ |
オブジェクトストレージについては、Azureが複数のアプリケーションを連携させるRESTベースで設計した非構造化データ用ストレージ、AWSは拡張性にすぐれたSimple Storage Serviceを使用するなど、それぞれ違いがあります。
後述する「Azure NetApp Files」は、AWSの特徴でもある従量課金制で利用できる、Azure専用のファイルストレージです。
Azure NetApp Files(ANF)について
Azure NetApp Files(ANF)とはAzure上で利用できる、管理者を必要としない、従量課金制のストレージサービスです。クラウド環境でも信頼性が高く、高性能なストレージ機能を求めている企業向けに開発されました。NetApp ONTAPのバージョンアップをはじめ、ディスクやコントローラ交換などの管理が一切必要ありません。なおONTAPとは、ブラウザでアクセス可能な管理画面を備えたNetApp社独自のOSです。
Azure NetApp Filesはクラウド上でもオンプレミスのように高いパフォーマンスを実現し、シンプルな設計でストレージのI/O性能を容易に変更できます。
ストレージ容量に合わせた許容範囲の設計が必要なく、無駄なコストを削減し、最適化します。また、クラウド環境でもスナップショットなどを瞬時に作成し、バックアップのデータ管理も可能です。Azureをさらに安定して運用したい場合は、最適な選択肢の1つとなるでしょう。
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まとめ
Azureは、Microsoft製品を使用してきた企業にとって、オンプレミス環境から移行しやすく、特化型で業界特有の課題を解決し得る点が強みです。急成長を遂げていることもあり、今後のサービス向上にも期待がかかります。AWSはAzureで利用できない分野が対象で、柔軟性・拡張性に優れており、小規模事業者から大企業まで対応します。安定した運用実績やライセンス制であることも利点です。
クラウドサービスの導入を検討する際に、どちらを採用するか判断に迷う場合は、今回解説した利用メリットで使い分けるとよいでしょう。なお、Azureのストレージサービスには、従量課金制のAzure NetApp Filesもあります。
それぞれに合ったクラウドサービスを導入し、企業ソリューションに役立ててください。
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