ハイパーコンバージドインフラ、あるいはハイパーコンバージドシステムと呼ばれる製品の市場が、急速に広がっています。一見、成熟したようにも思えるIT市場で「新しい風」として登場した製品領域です。
その概要は、サーバとネットワークおよびソフトウェア(ハイパーバイザとストレージ機能)といった、仮想化環境のためのシステムインフラに必要なものを一つに集約している製品です。
こうした統合型システムインフラは、兼ねてより「コンバージドインフラ」という名称で普及していました。コンバージドインフラにはサーバとストレージ、ネットワークおよびソフトウェア(ハイパーバイザのみ)が集約されています。
これに比べて何が“ハイパー”なのかというと、ストレージを無くしソフトウェアで記憶域を定義することで、コンバージドインフラの極小化に成功したことから、“ハイパー”が付きます。
「ソフトウェアで記憶域を定義する」というのは、SDS(ソフトウェア・デファインド・ストレージ)という技術を使用して、複数内蔵されているサーバのストレージリソースをソフトウェアで統合し、一つのストレージとして定義することです。これにより、複数のサーバから一つのストレージプールに接続でき、ストレージ専用機器を削減できます。
参考記事:ハイパーコンバージドインフラとは?コンバージドインフラとの違いを解説
広がりを見せるハイパーコンバージドインフラの市場
こうしたハイパーコンバージドインフラの市場規模は、米調査会社のガートナーによると、米国では2016年5月時点で市場規模が20億ドル(2,270億円)に達していると言います。
引用:Gartner Press Release「Gartner Says Hyperconverged Integrated Systems Will Be Mainstream in Five Years」
さらに、世界的な市場調査会社およびコンサルティングのMarketsandMarketsによれば、世界のハイパーコンバージドインフラ市場は年平均成長率43.59%で成長し、2022年には126億740万ドルに達すると予測されています。
引用:MarketsandMarkets「Hyper-converged Infrastructure Market worth 12,607.4 Million USD by 2022」
ハイパーコンバージドインフラがここまで大きく市場を拡大している(拡大していく)理由とは何なのでしょうか?今回は、ハイパーコンバージドインフラで得られるメリットと、導入時の注意点としてデメリットを合わせて紹介します。
ハイパーコンバージドインフラのメリット
ハイパーコンバージドインフラの各メリットは、結局のところシステムインフラに必要な製品が一つに集約されたという点に集約されます。それらのメリットは、日本企業が持つIT課題を解決し得るのでしょうか?
メリット1.必要なものがセットになって出荷される
仮想化環境を構築しようというとき、プロジェクトのボトルネックになる部分は導入から運用までにかかる手間の数々です。企画・要件定義に始まり、製品選定、動作検証、構築および初期設定などをコストとして換算すると、往々にして多額なコストになります。
こうした手間を削減できれば、相対的に仮想化環境構築にかかるコストも削減されます。このコスト削減を実現するのがハイパーコンバージドインフラです。
ハイパーコンバージドインフラには、仮想化環境構築に必要なシステムのすべてが詰まっています。従ってシステムごとに発生していた製品選定の手間は、一回に集約されます。もちろん、その分慎重な製品選定が必要になるものの、複数システムを選定する手間は確実に少なくなります。
メリット2.筐体が非常にコンパクトかつスケールアウトが容易
一般的なハイパーコンバージドインフラは筐体が非常にコンパクトなため、設置コストを大幅に削減できるというメリットがあります。たとえばNetAppが提供する「NetApp HCI(ハイパー・コンバージド・インフラストラクチャ)」の最小構成は4RUという驚異的なコンパクトさです。4RUというコンパクトな筐体の中に、コンピューティングノードが2つ、サーバおよびストレージノードが4つ、拡張ノードが2つ備わっています。
さらに、専用ラックではなく既設ラックに設置できるため、データセンターにかかるコストも大幅に削減できるでしょう。
また、ハイパーコンバージド インフラの最大のメリットは拡張性です。必要になった時にリソースを追加すれば簡単に拡張できるというメリットがあります。
メリット3.スモールスタートが可能に
ハイパーコンバージド インフラの特徴としてワークロードに応じて筐体を簡単に追加できるというメリットを前述しました。
このことは最初は必要最小限の構成で済むという裏返しでもあります。必要になったらリソースを追加すれば良いのです。
メリット4. 運用が楽に
従来の仮想化基盤ではサーバやネットワーク、ストレージ、仮想化ソフトをそれぞれ購入していました。つまり、各製品を組み合わせた設計や検証、テスト、ケーブリングなどが必要でした。
ハイパーコンバージド インフラの場合、全てが一つの筐体に収められた形で提供されるため、今までのような煩雑な作業は一切必要なくなります。つまりサーバだけを組み合わせれば良いのです。
ハイパーコンバージドインフラ導入時の注意点
ハイパーコンバージドインフラを導入する注意点を強いて上げると、ベンダーごとに成熟度が違う点にあるということでしょう。成熟度と言っても機能的な成熟度であって、ハイパーコンバージド インフラ歴が長いベンダーが良いものを提供しているとは限りません。
そのことを念頭に製品選定時の注意点をご紹介します。
メリットはほぼ上述した内容でどのベンダーも同じことを言っています。「HCIのコンセプトは一緒でも実装方法は各社違う」ので導入時にはそこを見極める必要があるのです。
それでは一体、どのような点に注意すべきでしょうか。
ワークロードごとのパフォーマンス保証はできるのか?
仮想化環境はいわば集約された環境です。あらゆるワークロードがひしめき合いながら動作しています。その時に重要なワークロードに対して、他のワークロードが影響してパフォーマンスが極端に遅くなったりすることが考えられるのです。
最新のハイパーコンバージド では、ワークロードごとにQoSの設定が可能になっているので、そのような機能を持ったものを選ぶようにしましょう。
柔軟なスケールアウトに対応できるのか?
ハイパーコンバージド の中身はご存知のようにコンピュートやストレージです。必要に応じて筐体を追加していくことでスケールします。
このことは何を意味するのかというと、旧来のHCIでは、コンピュートは十分な性能を発揮しているのにストレージが足りないために新たな筐体が必要になってしまうのです。これでは不要なものまで購入してしまい遊休資産が増え続けるだけです。
最新のHCIでは、きめ細かな個別追加できるようなアーキテクチャーに変更されています。そのような製品を選ぶようにすると良いでしょう。
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運用は自動化できるのか?
旧来のHCIは、スタンダードなAPIへの対応ができなかったり、ソフトウェアやクラウドとの親和性が低かったりブラックボックスになりがちでした。このことは運用の難しさに繋がります。
例えば管理やオーケストレーション、バックアップ、ディザスタリカバリなど高度なツールとシームレスに連携できるのかを確認するようにしましょう。
ハイパーコンバージドのデメリット
一般的なハイパーコンバージド インフラストラクチャのデメリットは、ストレージをソフトウェアで定義していることから、従来型やコンバージドインフラに比べてパフォーマンスが低下したり、各システムが集約されていることによる障害発生時のリスクが高まったりなどがデメリットなどと言われています。
近年は性能が大幅に向上していますが、全ての環境で万能ではありません。
そのことからネットアップなどではハイパーコンバージド インフラとコンバージドインフラという包括的なポートフォリオでお客様の状況に応じた選択肢を提供しています。
まとめ
ハイパーコンバージドインフラのメリットとデメリットは製品によっても違います。従って、「ハイパーコンバージドインフラにはこんなメリット・デメリットがある」と考えを固定するのではなく、柔軟に各製品のメリット・デメリットを比較した上で、場合によってはコンバージドインフラなど、自社にとって最適な製品を選ぶようにしましょう。
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