AI(Artificial Intelligence/人工知能)と医療。これらが組み合わさって生まれる付加価値は我々の想像を遥かに超えています。すでにAIを活用したメディカルサービスはスタートしており、AIが持つ高度な処理能力によって新薬の開発に役立てる事例も増えています。かねてよりAIは様々な産業に影響を与えていますが、医療業界はAIによってどのように変わっていくのでしょうか?本記事ではそのポイントをご紹介します。
AIのタイプを整理
まずはAIの基礎情報として複数存在するタイプを整理しておきましょう。
機械学習(マシンラーニング)
収集したデータに基づき、分析を繰り返す中で進歩する性能を持てるようにするためのアルゴリズムです。これは、膨大なデータを長時間かけて分析することでデータの傾向を分類・把握したり、何かを予測したりするのに役立ちます。外科医は機械学習を通じてスポーツによる怪我に対応するための整形外科的介入に備えることができ、現役生活の長いテニスプレイヤーに特有の靭帯修復に対する理解を深めることや、様々なスポーツで発生する膝の怪我の違いを明瞭にすることが可能です。この情報を活用し、外科医は非常に多くの情報に基づいて治療判断を下すことができます。
深層学習(ディープラーニング)
ディープラーニングは機械学習の一種であり、人間の脳神経系を模倣した人工ニュートラルネットワークにより、膨大な量のデータを効率的に読み込んで自ら学習を繰り返します。機械学習が膨大な量のデータを解析することで、特定のゲノム指標や統計データ、あらゆる疾患間の繋がりを明らかにし、「第X因子」と特定の疾患の相関関係を手作業で探している研究者に、発見のためのヒントを素早く提供してくれます。
AIで変貌を遂げる医療業界
それでは、AI活用によって医療業界はどのように変わっていくのでしょうか?ここでは医療画像、患者ケア、医療業務の管理、研究開発のカテゴリに分類してご紹介します。
医療画像
AIの画像認識技術は人間のそれを遥かに超えています。早期介入と予防衛生に注目が集まっている中、医療画像治術を採用する医療機関が増加しており、3D画像や4D画像、リアルタイム分析、GPU(Graphics Processing Unit/グラフィック処理ユニット)による高速処理などテクノロジーは進歩し、放射線科医はこうした強力なツールを通じて迅速かつ正確な診断を下して治療方法を推奨できます。
最新の画像認識技術では圧倒的な情報量が生成されることから、放射線科医が手作業で処理するのは非常に難しく、多大な時間を消費します。例えば、CTマシンでは1回のスキャンで64~640枚のスライスが生成され、画像数が640スライスのCTスキャナを使うことで放射線科医の疾患発見精度は高まるものの、画像の確認と評価に多くの時間を費やすことになります。
これがAI活用により、放射線科医の作業をサポートし、画像のトリアージを行うことで医師への過度な負担を防止し、正常な画像を素早く選別して例外があった場合は警告が受けられます。トリアージによって医師は画像の選別ではなく、疾患の診断と治療へと専念できます。
患者ケア
患者の健康改善に従事する熟練臨床医による、個々人に合わせたケアを超える治療はありません。そのため、AIは医療従事者を支援し、人間がミスを犯す可能性を低減して患者の治療成果の向上に貢献することができるようになります。
世界各国の外科診療においては、AI対応ロボットによる手術が始まっています。ロボットが手術を支援したり、場合によってはロボットだけで処置したりすることで、より多くの手術を高い精度で実施できるようになります。ロボットによる支援施術は細かい正確な動きが要求される超微細な手術分野で注目を集めており、現在ではコンピュータビジョンソフトウェアに機械学習を組み合わせて、人の手では対処できないほど小さな部位の手術で器具を操作できるようになります。
また、投薬量の誤りや有害な薬物相互作用の発生といった医療ミスは患者に害を及ぼし、訴訟に発展することがあります。看護師や医師、薬剤師が誤って危険な薬剤を投与しないように、作業や動作をチェックする監視役としてAIを活用することが可能です。さらに、AIが電子カルテ全体を調べて、医師が効果的な薬剤を処方する上で役立つ関連要素を特定することもできます。
医療業務の管理
病院及び診療所は、人々の健康を維持するだけでなく事業運営を維持する必要があり、複数の方や医療論理に準拠しながら事務処理や入出金、電子カルテのセキュリティ管理など時間と手間がかかる作業に溢れています。
EHR(Electronic Health Record/電子カルテ)はボタンをクリックするだけで患者情報を利用できることが大きなメリットですが、カルテへのデータ入力にかかる時間は医療従事者に事務的負担だと考えられています。臨床医にとっては、コンピューターを起動して初見や治療計画を入力するために、実際に患者と関わるのと同じくらいの時間を費やすことが多いと声も聞こえてきます。
ここで有効なのが、自然言語処理に特化したAIアプリケーションです。音声をテキストに変換することが可能であり、精度を損わずに記録管理プロセスを高速化するため、臨床医の貴重な時間を解放し、不満を緩和することが可能です。AI対応の電子カルテを使用することで、医師一人当たり毎月平均3,000ドル(約32万円)を節約できるとの見解もあります。
研究開発
最新医療では、現在の患者の治療をするだけでなく将来的な患者をより効率的に治療できる新しい手法を発見することが重視されています。つまり、新しい療法や治療、薬剤の研究開発が医療の発展に欠かせないということです。
臨床試験を通らなかった治療法を開発するまでに要した高額なコストや、研究施設とスタッフの費用、新薬の市場投入における法規制の課題など、多くの理由から医療の研究開発には膨大な資金と時間が必要とされます。
AIは医療の研究開発プロセスの合理化に貢献でき、研究チームが有望な分子を分離するまでに数ヶ月あるいは数年を有することがあるため、機械学習によって多くの可能性を素早く効率的に検証できるようになります。このため、研究者は最も期待できる機会のみに焦点を当てることが可能になり、これまでよりも短い期間で、しかも低コストで新薬を市場へ投入できるでしょう。また、AIによって製薬会社は12~14年間で26億ドル(約2,800億円)もの薬剤開発コストを節約できると推定されています。
医療業界でのAI活用による付加価値増大
いかがでしょうか?AIによる医療業界の革新はすでにスタートしており、日本の医療業界でもAI活用へ積極的になりつつあります。今後はAI活用によってさらに付加価値を増大させ、医療業界が経済に与える影響度が非常に大きなものになっていくでしょう。この機会に、医療×AIにぜひご注目ください。
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