ストレージに格納される情報には、作成されてから役割を終えて削除されるまでのライフサイクルがあります。これに着目する概念がILM(Information Lifecycle Management)です。この考え方をストレージにも適用することで、増加し続けるデータを効率的に管理することができるため、ストレージの運用とILMはつながりが深いのです。今回はこのILMについて具体的に紹介していきましょう。
ILMとは?
情報というのは新しく作成されてから活用、参照、保存という各段階を経て、最終的に削除されます。この一連の流れを情報ライフサイクルといい、それを管理するための概念や技術がILMです。
それを実現するためのストレージ技術として、ストレージ階層化があります。これは、異なる性能のストレージを組み合わせて、使用頻度の高い情報を高性能なハードウェアへ、使用頻度の低い情報は安価なハードウェアへ保存するという方法です。これにより、コストと利用のバランスを図りながら、効率的なストレージ管理を実現するのです。
ストレージの階層は次のように分断するのが一般的です。
オンラインストレージ:使用頻度が高く、システムパフォーマンスを優先する
ニアラインストレージ:使用頻度が中程度で、コストパフォーマンスを優先する
オフラインストレージ:使用頻度が低く、長期保存を優先する
こうしてストレージを階層化することで、情報の使用頻度ごとに異なる管理を行い、適切なILMを実現できます。
ILMはなぜ必要なのか
従来はそれほど重要視されていなかったILMですが、近年急速にILMに注目する企業が増えてきました。ではその理由とは何でしょうか?
情報量の増加が劇的に進んでいる
世界の情報量というのは、ここ数年で劇的に増加しています。IoTなどセンサーを活用した様々なサービス、インターネットサービスの増加、Webサイト運用の一般化、オンラインショッピングの普及など様々な理由によって、情報が溢れる社会になりました。
そうして蓄積された情報というのは、企業にとって大きな資産の一つです。ビッグデータ解析が活発化していることから、情報は以前にも増して価値を持ち、そこからビジネスチャンスを創出しようという動きが国をあげてみられています。
こうした情報量の劇的な増加も、ILMが必要な理由の一つです。なぜなら、増加し続ける情報を適切に管理しないまま放置していると、整理されないデータが無尽蔵に増えてゆき、適切に活用できなくなってしまうからです。
従ってILMによって適切な情報管理を施すことで、新鮮なデータを正しく活用できるような情報活用環境を整えることができるのです。
コンプライアンスの維持
コンプライアンス(法令遵守)というのは、企業としての信頼やイメージを守るために、法令や基準に従って組織体制を整えることです。その中には、適切な情報管理も含まれます。
「コンプライアンスの問題」というニュースを見聞きしたことはないでしょうか?これは、内部要因あるいは外部からの攻撃によって情報漏えいや不適切な情報管理、データの改ざんなどが起きてしまったことで、企業としての信頼を失うことにつながります。
このコンプライアンスは上場企業だけでなく企業規模や業種を問わず年々重要視されている要素です。コンプライアンスの徹底には様々な要素がありますが、適切な―データ管理はそのひとつです。
従ってすべての企業にとって、コンプライアンス維持のためにILMを意識した情報の適切な管理は重要な課題と言えます。
ストレージコストの削減
世界の情報量が増え続けていると先述しました。具体的な数値でいうと、ある調査では世界の情報が年間40%のスピードで増加し、2020年までには現在の50倍にも増加しているとしています。
参考:THE BRIGDE.「世界のデータ量が毎年40%増加、2020年までに50倍に」
一企業の情報量増加率が、これとまったく同じではなく、もう少し緩やかな増加率でしょう。ただし、それでもなお劇的に増加していることには変わりありません。
そうした中、大きな問題になってくるのがストレージコストです。数年後には現在の何十倍ものリソースが必要になっているわけですから、ストレージコストが現在の倍以上かかってしまう企業もあるでしょう。
そこでILMによって情報ライフサイクルを適切に管理して、必要な情報とそうでない情報を明確にすることが有効です。
確かに情報には大きな価値があります。しかし、全ての情報がというわけではありません。保管していてもまったく価値のない情報や、法定の保存期間を過ぎた情報などは積極的に整理し、ストレージにかかる負担を軽減します。
場合によって、情報全体の1割以上を削減できる可能性もあります。そうすれば、相対的に必要なリソースも少なくなり、ストレージコストを削減できます。
こうしたILMを継続的に徹底すれば、長期にわたってコストを最適化しながら適切な情報量を維持できるでしょう。
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ILMはなぜセキュリティ対策になるのか
冒頭でILMはセキュリティ対策になると説明しました。しかし、情報ライフサイクルを管理するためのILMが、なぜセキュリティ対策になるのでしょうか?その理由は、ILMを提供するIT製品の中には、情報の重要度や機密度によってアクセス権限を設定できるものがあるためです。
例えば、従来の人に依存したセキュリティ対策では、情報漏えいを確実に防げない弱点があります。ファイルやフォルダーのアクセス権を例に挙げると、部署や役職ごとにアクセスできる共有フォルダを設定することで、機密情報のセキュリティを維持してきました。
しかし、実際にはそれだけではなく、情報のライフサイクルに合わせて適切な権限も変化してゆくことがあります。たとえば、現在の業務では従事している人が必要なデータであっても、過去の個人情報を含むような情報は、その部門に属している従業員でもアクセスするべきではないということがあるでしょう。
つまり、適切なアクセス権限はその時点での情報の種類だけでなく、どのライフサイクルステージにあるかによっても変わるものなのです。
しかしながら、多くの場合は作成された時点でのアクセス権がどのライフサイクルステージにあったアクセス権を維持してしまっているでしょう。システム上は正当なアクセスとなってしまうため、現在の従業員が過去のデータにアクセスしてもアラートは上がりません。
ここにILMの考えを反映したデータの運用があれば、時系列を含めた適切なアクセス管理を実現することができるのです。
このように、ILMは増え続ける情報に対するコストを最適化するという効果だけでなく、情報セキュリティための概念と技術としても注目されているのです。
まとめ
皆さんの企業では現在どれほどの情報が保管されていて、どのように整理されているでしょうか?適切な整理ができていないと感じる企業は、ぜひILMを検討してみてください。増え続けてゆくデータをコストを最適化しながら活用し、かつ情報セキュリティの観点でも重要な視点となるでしょう。
また実際にデータを保管するストレージにも、ILMをポリシーをして実装できるかどうかという視点を合わせて確認することにより、様々な視点で最適化できる総合的なソリューションを選択できるでしょう。
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