マルチクラウドとは?ハイブリッドクラウドとの違いやメリットについて

 2020.05.12  2022.11.24

自社システムをクラウドへ移行する際には、さまざまな選択肢が存在します。安価に契約可能ですが、複数ユーザーでリソースを共有する「パブリッククラウド(Public Cloud)」。独占的な環境で高可用性とハイパフォーマンスを実現する「プライベートクラウド(Private Cloud)」。これらパブリックとプライベートとを組み合わせ、最適なインフラ基盤を構築する「ハイブリッドクラウド(Hybrid Cloud)」。そして近年注目されてきているのが、利便性が高くリスクヘッジにも秀でた「マルチクラウド(Multi Cloud)」です。

本記事では、マルチクラウドとハイブリッドクラウドそれぞれのメリット・デメリットを整理したうえで、マルチクラウドを導入する際の具体的な流れなどについても解説します。

マルチクラウドとは?ハイブリッドクラウドとの違いやメリットについて

マルチクラウドとは「複数のクラウドの併用」

マルチクラウドとは、複数のクラウド事業者のサービスを同時並行的に利用している環境のことです。例えば、A社のオンラインストレージサービスと、B社のアプリケーション開発用プラットフォームとを契約し、それらを並行的に利用します。また別事業者のパブリッククラウドとプライベートクラウドとを同時に契約し、並行利用しているケースも多いです。

加えて、複数の事業者からあえて同一内容のクラウドサービスを導入し、並行利用する場合もあります。これは後述のように、リスク分散として有用な手段です。

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ハイブリッドクラウドとの違い

マルチクラウドと混同されやすいクラウド環境として、ハイブリッドクラウドが挙げられます。この2つは似て非なるものであり、それぞれの環境にメリットとデメリットがあります。自社にとって最適なクラウド環境を構築するには、双方の利点や注意点、特徴を正しく把握しておかねばなりません。

なおさらに詳しく確認したいという方は、以下もぜひご参照ください。
ハイブリッドクラウドの特徴やメリット、選定方法や導入の流れを解説

ハイブリッドクラウドとは「クラウドを含む異なる環境の統合」

ハイブリッドクラウドとは、複数の異なるクラウドサービスを組み合わせ、ひとつのシステムを構築している環境のことです。例えば、各拠点に構築しているオンプレミス環境と、それらを結ぶプライベートクラウドやパブリッククラウドの3つを、ひとつに統合して使用するような環境が該当します。

複数のサービスを同時に契約している点、複数のサービスの組み合わせによって総合的に業務を遂行する点は、ハイブリッドクラウドとマルチクラウドに共通しています。しかし両者の大きな違いは、それぞれのサービスが「ひとつのシステム」として統合されているかどうかです。

ハイブリッドクラウドでは複数のクラウドサービスがひとつに統合されています。これを実現するには、各クラウド間が接続されている必要があります。一方マルチクラウドでは、各事業者のサービスをそれぞれ独立させて利用します。各クラウドサービス間を接続することはなく、データなどを連携させることも必須ではありません。

ハイブリッドクラウドの事例としては、「自社のオンプレミス環境やプライベートクラウド環境を主軸として、各クラウドサービスを連携させている」というケースが目立ちます。他方マルチクラウドではオンプレミスを用いず、複数他社のクラウドサービスのみで環境を構築するケースも少なくありません。

ハイブリッドクラウドのメリット

ハイブリッドクラウドのメリットとして、コスト削減を実現できる点が挙げられます。

例えば、プライベートクラウド環境にアクセス可能なのは基本的に自社従業員のみなため、セキュリティ面を強固にカスタマイズしやすいという大きなメリットがあります。もちろん、他の機能面でも自由度の高いカスタマイズが可能です。しかしプライベートクラウドだけで最適な業務状況を整えようとすれば、構築から運用まで高額なコストが発生します。また、自社内に物理サーバーなどのハードを設置して専用の環境を構築するケースでは、管理やメンテナンスにも相応のコストが発生し続けます。

一方、社内外の環境を統合して利用するハイブリッドクラウドなら、コストを抑えつつ、必要に応じて最適な環境を使い分け可能になります。

また、自社のレガシーシステムを入れ替えることなく活用し続けられる点も魅力です。レガシーシステムを刷新するとなれば多額の費用が発生します。資金に大きな余裕がある企業でない限りは、経営全般が圧迫されるおそれにつながります。

ハイブリッドクラウドであれば、レガシーシステムと外部のクラウドサービスを組みあわせて柔軟にIT環境を構築できます。こうしたクラウドとの連携によって、既存システムを今後のビジネスにも活用し続けることで、システムの刷新を避けられます。

リスクを分散できる点も、大きなメリットです。例えば、プライベートクラウドのみでデータを保存している場合、もしそのクラウドで大規模なトラブルが発生すれば、大切なデータがすべて消失してしまうおそれもあります。そうなれば、計り知れない損失につながるかもしれません。

一方、ハイブリッドクラウド環境では、データを一ヶ所で保存することなく、分散して保存できます。万が一ひとつのシステムに問題が生じたとしても、「すべてのデータを一度に失う」などの大きなリスクは生じません。

ハイブリッドクラウドのデメリット

ハイブリッドクラウドのデメリットとして、システム構成が複雑になりやすい点が挙げられます。複数の異なる環境を接続し合ってシステムを構築するため、どうしても構成が複雑になりがちです。

システムの構成が複雑になると、その分管理に手間がかかります。特にパブリックとプライベートとを組みあわせて利用したい場合は、それぞれの環境に関する高度な知識を有した人材でないと管理は難しいでしょう。そのため、自社だけでは管理できなくなることも考えられます。

なお、外部のクラウドサービス自体にトラブルが発生した折には、基本的にはベンダー側が対応します。ただ自社側にも、「どのようなトラブルが起きているのか、どういった状況なのか」をベンダーのサポート担当へ正しく伝えられる人材が求められます。

また、構成が複雑であるほど、日常的な運用の難易度も高まります。運用が適切になされていなければ、ハイブリッドクラウドのメリットが薄れてしまうことも懸念されます。例えば運用費がかさんだり、トラブルなどで臨時的な対応費用が発生したりすれば、「低コスト」というハイブリッドクラウドの利点がかき消えてしまうでしょう。

マルチクラウド環境にするメリット

次に、マルチクラウドのメリットを整理します。これにより、マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違いもより明確に理解できます。

メリット1. クラウドプロバイダーの利点を使い分けられる

クラウドプロバイダーとは、オンラインストレージやアプリケーション開発環境などのクラウドサービスを提供する企業です。基本的に、多くのクラウドサービスのメンテナンスやアップデートは、クラウドプロバイダー側が対応します。

クラウドは、サービスを提供するプロバイダーによって利点が大きく異なります。素早い機能リリースに強いプロバイダー、コストメリットが高いプロバイダー、IoTやAIなどの新技術に特化したプロバイダーなどその特徴は多岐にわたります。

すべての要素を兼ね備えたオールラウンドなクラウドプロバイダーは存在しないと言ってもよいでしょう。そのため単一サービスだけでは、機能不足などの課題を解消しづらく、自社のビジネス要件を満たせないケースが多いです。複数のクラウドプロバイダーからサービス提供を受け、各サービスの利点をそれぞれ活用することで、自社のビジネス要件をより高水準に満たすことが可能になります。

メリット2. 障害発生時のリスクに対処できる

大手クラウドプロバイダーが提供する信頼性の高いサービスであっても、障害が発生しないとは限りません。また、「大手クラウドサービスを利用していれば、データバックアップが自動的に取得され、可用性が保たれている」と誤解しているユーザーも多いでしょう。実際は、多くのクラウドプロバイダーが第三者サービスによるデータバックアップも、強く推奨しています。

このため、クラウド上での障害発生を想定したうえで、リスクヘッジとなるような対策が必要です。この点で、同一タイプのサービスを複数のクラウドプロバイダーから利用するマルチクラウド環境を整えておけば、どこかでシステム障害が発生してもリスクを分散し、ビジネスの可用性を飛躍的に高められます。

なお、クラウドプロバイダーが提供するサービス内には、「可用性を保つためのセキュリティオプション」などが含まれていることもあります。しかしやはり、複数のクラウドプロバイダーにリスクを分散する方が確実です。

メリット3. ベンダーロックインを回避できる

ベンダーロックインというのは、特定のクラウドプロバイダーに自社のシステム・インフラが依存する状況を指します。これは、自社ビジネスへの影響度を予想するのが難しい問題を生み出します。

クラウドはその性質上、プロバイダー側によって予期せぬリリースや価格改定などが行われることが少なくありません。そのプロバイダーのシステム・インフラ以外に選択肢を持っていないユーザーでは、こうした突然の変更なども許容せざるを得ません。結果、当初より基本契約費が増えるなど、自社の負担が重くなるおそれもあります。

もちろん、多くのクラウドプロバイダーはリリースに関するポリシーを定めて明示していますが、その中でもユーザーにとって予想外の事象が発生する可能性は否めません。マルチクラウドなら特定のクラウドプロバイダーにシステム・インフラが依存することはないため、いずれかのサービスが自社ビジネスに適合しなくなったとときは、速やかにほかのサービスへと移行できます。

以上のメリットから、マルチクラウドとは「より良いクラウド環境を構築するために、あえて同一カテゴリのサービスを利用するなど、重複した環境を構築することでビジネス要件を満たしたり、リスクヘッジとしたりするための新しい選択肢である」ということがわかります。

メリット4. アクセス集中の負担が解消される

マルチクラウド環境の構築によって、アクセスが集中したときの負担を軽減できます。突発的にアクセスが集中し、システムがダウンしてしまうケースは少なくありません。システムダウンが発生すると、通常通り業務を継続できなくなるばかりか、自社の顧客に迷惑をかけてしまうおそれもあります。

これは、大きな機会損失へもつながり得ます。システムダウンで通常サービスすら満足に提供できない状態が続けば、顧客は離れてしまいます。当然、一度離れていった顧客が再び戻ってくれる保証はありません。

マルチクラウドであれば、どこかのシステムがダウンしたとしても、その影響をそのシステム内のみに留めやすいため、多くの場合で通常サービスを続行可能です。したがって、「多数の顧客離れ」などの重大なリスクを回避できます。

メリット5. カスタマイズ性が高い

複数のクラウドサービスを、直接的に連携させることなく組み合わせるため、自社ビジネスに適合する環境を構築しやすいです。ひとつのクラウドサービスでは不可能な事業も、複数サービスの組み合わせによって実現できる可能性が高まります。

基本的にクラウドサービスは、オンプレミスに比べてカスタマイズ性が高くありません。拠点に物理的リソースを用意しシステムを構築するオンプレミスとは異なり、クラウドサービスはベンダー側の仕様に依存するからです。

しかし、マルチクラウドであれば複数のサービスを並行して利用するため、うまく組み合わせることで上記のような課題を解決できます。結果、顧客の多様なニーズにも対応しやすくなり、さらなるビジネスの発展が期待できます。

マルチクラウドにもデメリットはある

上記のように多数のメリットを持つマルチクラウドですが、当然ながらデメリットもあります。乗り越えるべきデメリットを知りつつ、上述したメリットを最大化するよう心掛けることで、マルチクラウドの有効性を大きく高めていけます。

デメリット1. サービス利用のコストが割高に

クラウドの中には長期利用やユーザー数に応じてディスカウントが受けられるプランがあります。しかし複数のクラウドプロバイダーからサービス提供を受けるマルチクラウドでは、各クラウドで使用するリソースが少なくなりやすいため、個々のプロバイダーが用意しているディスカウント条件を満たせなくなることもあります。

デメリット2. サービスの運用負担が増える

物理的なシステムメンテナンスはクラウドプロバイダーが実行しますが、管理コンソールからの細かい管理はユーザー自身が行います。複数のクラウドを利用するとその分管理すべき対象が増えるため、サービスの運用負担が増えることになります。

デメリット3. セキュリティやパスワード管理が複雑になる

障害発生時のリスクヘッジとして活用できるマルチクラウドですが、管理すべきセキュリティ対象が増えるほど、脆弱化しやすくなります。また、パスワード管理などの認証も複雑になることは言うまでもありません。当然、共通のパスワードを設定するのは非常に危険なので、サービスごとに複雑かつユニークなパスワードを設定しなければいけません。その中でセキュリティ性と利便性を両立させるには、シングルサインオンによるアカウントの一元化を検討しましょう。

これらのデメリットはクラウドを利用するうえで重くのしかかることがあります。各クラウドプロバイダーの特徴をしっかりと整理したうえで、どのサービスを組み合わせるのが最適なのかを常に検討します。

マルチクラウド導入の流れ

マルチクラウドを導入する際には、まず自社が抱えている課題の抽出から始めましょう。そのうえで目的にマッチした各種サービスの選定を進めます。綿密に計画を立てながら、管理ツールの導入も含め、慎重に検討してください。

自社の課題を洗い出す

まずは自社が抱えている課題を抽出しましょう。「マルチクラウドを導入すれば業務が効率化される」といった漠然とした目的意識で導入を進めることは避けてください。コストを費やした末に導入失敗で終わるおそれすらあります。

マルチクラウドは何でも解決できる万能なものではありません。自社が抱える課題によっては、マルチクラウド以外の手段が最適な解決方法であるケースも少なくはありません。自社にとってマルチクラウドが最善の選択肢かを明確にするため、まずは自社の課題を正確に洗い出す必要があります。

課題を洗い出す際には、ブレインストーミングの手法を用いるとスムーズです。ブレインストーミングは、ひとつのテーマに沿って複数人でアイデアを出し合う手法です。この手法によって、今まで見えていなかった課題をさまざまな視点から可視化していけます。また、ロジックツリーのようなフレームワークを使うのもひとつの手です。

課題を抽出できたら、その課題を解決するのにクラウドの導入が必要かどうかを検討してみましょう。課題によっては、既存システムのままで解決できるものがあるかもしれません。

目的に合ったクラウドを選定する

課題の解決が可能なクラウドを選定するプロセスです。マルチクラウドでは、複数サービスのよいところを組みあわせて活用するため、ひとつのサービスで全課題の解決を狙う必要はありません。「全課題を解決するひとつのクラウドサービス」を探すのではなく、各課題解決には、それぞれどんなクラウドサービスが有効かを考えます。例えば、「Aの課題にはBのサービスを、Cの目的を達成するにはEのクラウドを」といったように、解決したい課題に特化したクラウドサービスを対応させながら、ピックアップしてください。

実際にサービスの選定を進める際には、さまざまな部分を比較しつつ進めていきましょう。基本的には、コストと機能、サポートの充実度などを軸に選定を進めます。どれほど優れたサービスであっても、コストが高すぎると経営を圧迫しかねないため注意が必要です。

クラウド移行の計画を立てる

サービスの選定が終わったら、移行の計画を立てましょう。計画をしっかりと立てないことには移行がスムーズに進みません。行き当たりばったりになってしまい、現場が混乱してしまうおそれもあります。

計画をじっくりと立てるのは、実際の移行作業を迅速に遂行するためでもあります。いつまでも移行業務が続けば、通常業務に支障をきたすおそれがあります。

これを避けるためには、まず計画段階で、移行完了の期限を明確に決めましょう。期限を設定すれば、そこから逆算し、いつまでに何をどのように進めていくべきかが定まります。かつ、各作業についての担当者や全体的な指揮系統を整理しておくと、よりスピーディな移行が期待できます。

マルチクラウド・管理ツールの導入

マルチクラウド環境では複数のサービスを導入するため、管理が複雑になりがちです。管理を効率化し、快適な運用環境の維持を望むなら、管理ツールの導入も有効です。

マルチクラウドにおける「管理ツール」とは、複数のサービスをツール上で管理できる製品を意味しています。具体的には、管理画面で各種サービスの状況を把握する、クラウドを切り替えるといったことが、ひとつのツール上で可能となるため、管理の手間を大幅に軽減できます。

また、導入しているサービスのセキュリティ状況を一貫して管理可能なツールもあります。このようなツールを導入すれば、セキュリティリスクも効率的に引き下げやすくなり、より安全な運用につながります。

マルチクラウド管理ツールもさまざまなベンダーからリリースされています。価格はもちろん、搭載機能やカバーできる領域、操作性などは各ツールによって異なります。さまざまな部分をチェックしつつ、自社に最適な管理ツールを選定しましょう。

オンプレミスからクラウドまで自由自在にデータを管理可能なNetApp

マルチクラウドとハイブリッドクラウド、どちらにもメリットとデメリットがあるため、それを理解したうえで自社に最適な環境の構築を進めるとよいでしょう。マルチクラウドを導入する際には、まずは自社の課題を抽出し、その解決に最適なサービスを選定しつつ、きちんと移行計画を立てることが大切です。必要に応じて管理ツールの導入も検討してみましょう。

NetAppが提供するストレージOSであるONTAPは、NetAppストレージにデフォルトで搭載されるもの以外に、汎用サーバー向けのONTAP Select、AWSやAzure上で動作する Cloud Volumes ONTAPを提供します。これによりエンタープライズクラスのデータストレージ管理を、クラウドやIAサーバーに展開することが可能になります。

また、FabricPool を利用すれば、オンプレミス環境のNetAppとクラウドを連携しハイブリッドクラウド環境を構築できるだけでなく、「ホットデータはオンプレミスに、コールドデータはクラウドに保管する」などの柔軟な設定も容易に可能になります。これらのデータはクラウド間において自由に配置設定が可能なため、使用クラウドを切り替える際にもデータの可搬性は保証されます。

ぜひ、自社にとって最適なクラウド環境をご検討ください。

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