近年、人工知能(AI)の活用がさまざまな業界で注目されています。少子高齢化社会による労働者不足が見込まれる中、人工知能を活用した生産性向上や労働者不足の穴埋めは、もはや不可欠といっても過言ではありません。本記事ではAIの歴史や種類、メリットを広範に解説するとともに、身近にあるAIの活用事例についてご紹介します。
AI(人工知能)とは
「AI」とは「Artificial Intelligence」の略で、辞書的な定義では「学習・推論・判断といった、人間の知能が持つ機能を備えたコンピューターシステム」を意味します。つまり、高性能なAIは、従来では人間にしかできなかったような高次の知的作業や判断にも対応できるということです。
現在の発達したAIは、単純な計算能力の高さはもちろん、高いレベルでの言語翻訳やさまざまなデータ分析が可能です。高い演算能力と膨大な記憶容量を備えたAIは、一部の領域ではすでに人間に匹敵、あるいは凌駕する知的能力の習得に至っています。実際、チェスや将棋などの知的ゲームで、AIがプロを下した事例もあるほどです。
AI(人工知能)の歴史
「人間のように考える機械」というアイデア自体は、実は「AI」という言葉が登場するよりずっと以前から、物語の世界で登場していました。たとえば、1900年に出版された有名な小説『オズの魔法使い』では、「ブリキの木こり」という心をなくしたキャラクターが登場します。
こうした「人間のように考える機械」に「AI」という言葉があてがわれたのは、アメリカの科学者ジョン・マッカーシー氏が1956年に使ったのが初めてだといわれています。1950年代初期のAI研究では、「人間のように機械が問題解決できるか」という基本的なトピックが研究されていました。
1960年代には、アメリカの国防総省がAIの研究に関心を示すなど、将来性こそ期待されていたものの、当時のAI研究は必ずしも順風満帆というわけではありませんでした。AI発展の障害となったのは、ひとえに、当時のコンピューターにおける情報処理能力と記憶容量の限界です。AIが発達するには、まずIT全体の基幹技術の発展を待たなくてはならなかったのです。
しかし1980年代に入ると、これらの問題は改善し、AI技術は大きく発展を遂げます。その原動力となったのが、ジョン・ホップフィールド氏とデビッド・ルメルハート氏が開発したディープ・ラーニング技術です。「ディープ・ラーニング」とは、コンピューターが自ら経験を使って学習するという革新的な機械学習のことで、これによりAIの学習能力・知的能力は劇的に向上しました。
1997年には、IBMのチェス用AI「ディープ・ブルー」が、当時チェスの世界チャンピオンであったゲーリー・カスパロフ氏に勝利し、AIの可能性を世界に見せつけました。そして現在では、サーバーを分散して、クラウド上でより大量のデータ(ビッグデータ)を収集・保存することが可能となりました。情報処理能力の発達と相まって、AIはすでに、人間ではこなせないような膨大なデータ処理までこなせるほどの成長を遂げています。
AIを活用するメリット・デメリット
では、AIの活用には、一体どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。以下でそれぞれ詳しく見ていきましょう。
メリット
深刻な少子高齢化が進み、将来の働き手不足が懸念される日本において、AIは労働力不足の解決策として強く期待されています。先述したようにAIの一部知的能力は、すでに人間のそれをも凌駕しています。そうした分野の業務をAIに置き換えることは、単純な労働者不足の対策以上の積極的な効果が見込まれます。
つまりAIの活用は、より少ないコストや時間で、より多くのアウトプットの産出をもたらし得るということです。AIの活用は経営活動において、利益の増加やコスト削減などに大きく貢献する取り組みといえます。
デメリット
AIの欠点としては、ゼロから新しい法則やアウトプットなどを生み出せない点が挙げられます。AIを活用するためには、まず人が情報をデータとしてAIに与えなければなりません。それにより初めてAIは自己学習できるため、事前の情報なしでは無用の長物と化します。
また、AIは多くの有益な情報を保有しているため、AIを狙った外部からの脅威による情報漏洩も懸念されます。十分なセキュリティ対策を講じ、適切にAIを保守・運用できる体制の構築が必須でしょう。
AI(人工知能)の種類
一口にAIといっても、実はいくつかの種類に分けられます。以下では、「特化型AI」と「汎用型AI」、そして「強いAI」「弱いAI」の4種について解説していきます。
特化型AI
「特化型AI」とは、限定された領域の課題に特化して、自動的に学習・処理を行う人工知能のことです。たとえば、自動運転技術や画像認識、人との会話や多言語翻訳を含む自然言語処理、将棋やチェスのような知的ゲームなど、1つの領域を専門に稼働します。
特化型AIの特徴としては、用途が限られる分、ときには人間を凌駕するほどの高い性能を発揮する点が挙げられます。たとえば、先述のチェスのチャンピオンを打ち負かした「ディープ・ブルー」も特化型AIです。企業などで活用されているAIの殆どはこの特化型AIだと言われています。
また、専門知識を身につけたAIに応答機能を搭載することで、人間のさまざまな質問に回答してもらうことも可能です。この特化型AIの発展によって、今後AIが人間の先生になる未来も訪れるかもしれません。
凡用型AI
特化型AIとは対照的に、「汎用型AI」は特定課題にのみ対応するものではなく、さまざまな課題を処理できる人工知能を指します。
汎用型AIは、想定外の課題に対しても、自分の能力や経験を応用することで汎用的に処理できます。特化型AIほど尖ったものではありませんが、むしろそれ以上に人間の知能を再現した、真に「人間と同じように考えられるコンピューター」といえます。とはいえ、汎用型AIの研究はまだ発展途上にあり、完全な実現には至っていません。今後のさらなる研究が期待される分野です。
強いAI
「強いAI」「弱いAI」という概念は、著名な哲学者ジョン・サール氏が唱えたAIの区別です。「強いAI」とは、実際に人間と同等の知能・汎用性を持ち、多種多様なタスクをこなせるAIを意味します。
強いAIは、人間のように考えて行動できるため、人間のように「想定外の状況に、過去の経験に基づいて学習・処理する」といった対応も可能になるとして、熱い期待が寄せられています。このような性質から、汎用型AIと概念的に重なるAIともいえます。
弱いAI
「弱いAI」は、人間の知性の一部分を代替し、特定のタスクだけを処理する人工知能を指します。与えられた仕事に対しては自動的に処理できる一方で、プログラムされていない想定外の状況には対応できないという特徴があります。強いAIとは対照的に、弱いAIは特化型AIと相関性のある概念区分です。
AIの身近な活用例
AIはすでに、家電製品や医療現場などでも活躍しており、私たちの日常生活を豊かにしています。以下では、AIが活用されている身近な具体例をご紹介していきます。
スマートスピーカー
私たちにとって身近なAIの活用事例としては、スマートスピーカーが挙げられます。「スマートスピーカー」とは、音声操作に対応して、AIアシスタントを利用できるスピーカーです。
スマートスピーカーは広い区分でいえば、スマート家電(IoT家電)の一種です。「スマート家電」はインターネットへの接続機能を備えた家電のことで、ネットワークを介してスマートフォンやほかのスマート家電と連携させることで、従来の家電では不可能な利便性をユーザーに提供します。
たとえば、スマートスピーカーをほかのスマート家電と連携させることで、照明やエアコンのオン・オフの切り替えなど、これまで手動にて行っていた操作が発声だけで行えるようになります。こうしたスマートスピーカーによる音声操作を実現するには、AIの高度な自然言語処理機能が欠かせません。
医療現場における画像診断
AIは、人命を預かる医療現場においても大いに活躍しています。その一例が、AIによる画像診断です。現在のAIは、画像の特徴から脳の正常・異常を細緻に分析し、見分けることが可能です。これにより、アルツハイマーや脳動脈瘤などを発見する診断材料として活用できます。
この機能を可能にするのは、AIの画像認識ないしは画像解析機能です。「画像認識」とは、AIが人間の視覚能力、あるいは視覚情報の処理能力を疑似的に再現し、静止画像や動画の内容を理解する技術です。
画像認識は、ディープ・ラーニングが最初に適用された分野でもあり、現在では自動車の自動運転を可能にする核心的な技術としても期待されています。ほかにも製造業における検品など、幅広い領域で役立つ可能性を持っています。
監視カメラのセキュリティ保全
AIの画像解析能力は、監視カメラによるセキュリティ対策でも役立てられています。先述したとおり、画像解析はディープ・ラーニングとの関係が深いものです。AIは、ディープ・ラーニングを通して画像解析を行うことで、一定量のデータを基礎として、画像データから自動で特徴点を検出できます。この機能によって、AIは監視カメラの映像から不審者の侵入を的確に検知します。
ほかにも、危険物の置き去りを検知したり、特定エリアの人数や混雑度を測定したりすることも可能です。スーパーの監視カメラにAIが導入されれば、万引きの監視などをAIが一手に担ってくれるようになるでしょう。このように、AIは私たちの生活の質を高めるだけでなく、安全を守るためにも用いられているのです。
まとめ
本記事ではAIについて、その定義・発展の歴史・種類・身近な活用事例など、基本的概要を俯瞰的に解説してきました。
AIの研究が開始されてからすでに70年近く経っていますが、「人間のように思考したり問題解決ができたりするコンピューターシステム」というAIの理想モデルは、未だ実現しているとはいえません。しかし、高性能な特化型AIの事例に見られるように、一部機能においてAIの能力は、すでに私達の日常生活や企業活動の中で役立てられており、場合によりその能力は人間が及ばない領域にまで達しています。
少子高齢化が進行し、将来的に労働力不足に陥ることが懸念される中、こうしたAIの能力を活用していく場はますます増えてくるでしょう。これからの時代において、AIの存在はまさに不可欠であるといえます。
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