2019年10月1日にリリースされ、現在、大注目のDaaS(Desktop as a Service)であるマイクロソフト自らが提供する「Windows Virtual Desktop(WVD)」。2019年11月22日には東日本リージョンでのWVDが正式リリースを迎え、日本企業の多くがWVD利用に前向きになりました。
これまで、VDIといえばCitrix XenDesktop やVMware Horizenが一般的なサービスとして浸透していましたが、WVDはそれらのサービスと何が違うのか?今回は、マイクロソフトが提供する新しいDaaS、WVDの全容を解説します。

Windows Virtual Desktop(WVD)はどんなDaaSか?
DaaSとはデスクトップ環境をインターネット経由で提供するサービスです。通常はクライアント端末内部で管理されているデスクトップ環境をサービスとして利用することで、集約管理や環境にとらわれない利活用を促せます。
このような環境は通常、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)として社内構築するのが一般的でした。VDIを構築するには接続先の仮想マシン作成だけでなく、ユーザーからのアクセスを受け付けるデートウェイや、ブローカーなどの管理コンポーネントを用意する必要があり、これらの調達、設置、運用に多くの手間がかかります。後に登場したDaaSはこれらのほとんどをクラウド提供事業者が管理しており、煩雑な調達や複雑な設置、運用の手間を省けるとして急速に利用が進みます。
WVDはつまり、マイクロスフトが提供するDaaSであり、Citrix XenDesktop やVMware Horizenといった従来主流だったDaaSとは違った特徴を多く持っています。
Windows Virtual Desktop(WVD)の特徴とは?
WVDが従来主流だったDaaSと比べて大きく異なる点は3つあります。「Windows 10マルチセッション接続」「Windows 7の延命サポート」「Windowsライセンス不要化」の3つです。
1. Windows 10マルチセッション接続
WVDはWindows 10のマルチセッション接続に対応しています。Windows 10などのOSでVDIを構築する場合、ユーザーごとに仮想マシンを割り当てる必要があります。一方、WVDのマルチセッション接続対応のWindows 10を使用すれば、1台の仮想マシンで複数のユーザーのVDI環境を構築可能です。仮想マシンのリソースを共有できるので、コスト削減が期待できます。
2. Windows 7の延命サポート
クラウドでのWindows 7ホスティングと、セキュリティプログラムのサポートを唯一提供できるDaaSがWVDです。WVDにホストされたWindows 7は「ESU(Extended Security Updates:拡張セキュリティ更新プログラム)」が無料で提供され、Windows 7のサポート期間終了日の2020年1月14日以降も、3年間のセキュリティ更新プログラムを無料で受けることができます。これまで延長サポート期間終了に焦っていた企業でも、延命措置として活用できるでしょう。
3. Windowsライセンス不要化
従来主流だったCitrix XenDesktop やVMware Horizenでは、DaaSを利用するためのサブスクリプションに加えてWindows OSライセンスの契約が必要でした。一方、WVDはDaaS利用とWindows OSライセンスが一本化されたことから、Windowsライセンスを別途用意する必要が無くなっています。これにより大幅なコスト削減に繋がります。
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Windows Virtual Desktop(WVD)の料金
WVDを利用するためには、Microsoft 365もしくはWindows 10の特定のサブスクリプションを契約していることが条件になります。言い換えれば、そのサブスクリプションがあれば簡単にDaaSを利用できるということです。該当するサブスクリプションは以下のようになります。
- Microsoft 365 E3
- Microsoft 365 E5
- Microsoft 365 A3
- Microsoft 365 A5
- Microsoft 365 Business
- Windows E3
- Windows E5
- Windows A3
- Windows A5
これに加えて、WVDセッションホストとなる仮想マシンを構築するためのクラウド基盤が必要です。WVDで利用できるのはMicrosoft Azureのみなので、Microsoft Azure利用のサブスクリプションも必要になります。
WVD料金に関しては、上記のMicrosoft 365またはWindowsのサブスクリプションを所持している場合、追加コストなしでWindows 10 EnterpriseおよびWindows 7 Enterpriseのデスクトップとアプリに接続できるようになります。実質的に発生する料金はMicrosoft Azureのサブスクリプション費用です。以下に、WVD公式ページに記載されている料金シミュレーションを記載します。
<US東部リージョンにマルチセッションを持つ100ユーザーデプロイのシナリオ例>
シナリオ |
説明 |
セッションホストVMコストの見積もり |
ストレージコストの見積もり |
---|---|---|---|
入力・閲覧 |
データ入力やコール センター アプリなどの軽量のユース ケースに |
3x D8s v3 |
3x E20 Standard SSD |
一般オフィスユーザー |
Word や Excel などの基本的な Microsoft Office アプリ、データベース アプリに |
4x D8s v3 |
3x E20 Standard SSD |
高負荷 |
開発やエンジニアなどのより負荷の高いワークロードに |
7x D8s v3 |
3x E20 Standard SSD |
大量のグラフィック |
3D CAD や Adobe Photoshop などのグラフィック処理の負荷が高いアプリ |
7x NV6 |
3x E20 Standard SSD |
個人用デスクトップ(VNあたり1ユーザー) |
各ユーザーの永続的エクスペリエンス |
D2s v3 |
2x E10 Standard SSD |
引用:Microsoft Azure『Windows Virtual Desktop の価格』
価格に関しては執筆時点のものであり正式にはマイクロソフトのホームページをご確認ください。
WVDでDaaSの選択肢が広がる
本来は社内で構築するはずのVDIをDaaSとして利用することで、導入・運用コストの削減などの効果が得られます。従来、VDIは高度な技術を要するものであり中小企業などでは導入が進まなかった背景があります。しかし、マイクロソフトが提供するWVDによってこれまでの状況は一変する見通しです。大企業はもとより中小企業でも気軽にDaaSが利用できるようになり、多くの企業がデスクトップ環境におけるコスト削減と運用負荷軽減、そして働き方改革などの効果が期待できます。DaaSの選択肢が広がった今、デスクトップ環境をクライアント端末内に置かなくてはいけないというのは古い考えになりつつあります。この機会に、WVDなどによるデスクトップ環境の仮想化を検討してみてはいかがでしょうか?
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