データ保護のためにも、NASや外付けHDD、クラウドサービスなどを使ってNASのバックアップを行いましょう。3種類のバックアップ方法のメリット・デメリットを押さえることが大切です。重要なデータからバックアップをとるなどの工夫をし、ポイントや注意点を押さえれば、適切なNASのバックアップを行えます。
NASのバックアップはなぜ必要なのか
日々の業務ではさまざまなデータを扱い、多くのデータを扱うほど、バックアップは必須です。
しかし、データは破損・消失する恐れがあります。要因は人的なミス・自然災害、サイバー攻撃・ウイルス感染やハードウェア障害・誤動作などさまざまです。これらの事態そのものを防ぐことは難しいですが、バックアップをとれば被害を減らすことができます。
バックアップとは、データ保護のためにデータを複製し、別の記憶媒体(NASや外付けHDD、DVDなど)に保存することです。バックアップは単なるデータの移動ではなく、同一のデータが複数の場所に存在することを指します。バックアップをとっていれば、データが破損してもバックアップをとった段階までは復元できます。
近年、NAS(Network Attached Storage)を導入する企業が増えました。NASとは、ネットワークを経由して複数のパソコンで共有・接続可能なハードディスクです。NASの導入によって、誰でもアクセスできる共有フォルダの作成や不正アクセス防止などが可能になり、社内の問題を解決できます。
NASに保存している顧客情報や機密情報などの重要なデータが失われれば、データ復旧に時間がかかる、顧客からの信用低下など多くの問題が生じるでしょう。データ復旧ができなければ、業務停止を余儀なくされてしまいます。
バックアップは、データの機密保持の点からも重要です。セキュリティ上の事故であるセキュリティインシデントが発生した場合、原因を究明・特定しなければなりません。
インシデント発生時のNASとバックアップデータを比較すれば、事故・脅威が生じた時期、原因を明らかにできます。原因がわかれば問題解消の取り組みや、再発防止の対策を実行できるはずです。
代表的なNASのバックアップ先
NASのバックアップ先には多くの種類がありますが、代表例に挙げられるのはNASや、外付けHDD、クラウドサービスの3つです。
NAS
NASは、有線・無線LANなどのネットワークを通して接続するネットワークストレージです。LANに接続すればどこからでも利用でき、バックアップはLAN経由で自動的に行われます。複数のパソコンから利用できる外付けHDDであり、設置場所の制限もありません。
NASはファイル・フォルダの保存や共有に特化しており、他の社員のパソコンとファイルを共有できます。ファイルへのアクセス権限の設定や、ファイルの一元管理も可能です。
企業向けのNASには、機種ごとにさまざまな機能が搭載されており、大容量のHDDが内蔵されているものが主流です。
NASの導入にはサーバーの購入費用がかかりますが、初期費用以外の費用は基本的に発生しません。定期的にアップデートをする必要があり、データ容量を変更する場合には新たにHDDなどを購入する必要があります。
機種や社内の状況によっては、初期の設定・構築に手間がかかる場合があります。さらに、経年劣化による故障の恐れがあります。NASの耐用年数は5~10年とされていますが、メーカー保証期間は一般的に3年ほどです。故障した場合は、新しいサーバーに買い替えましょう。
NASの利用には、情報漏洩やウイルス感染、盗難や災害など複数のリスクが存在します。それぞれのリスクに対して、対策をとることが重要です。
盗難に備えて暗号化機能を利用する、脆弱性への対策として最新のOSやセキュリティソフトを導入するなどの取り組みをしましょう。情報の不正な持ち出しを防止するため、アクセス制御を徹底することも重要です。ウイルス感染防止機能が搭載されているNASもあるので、導入時に確認することをおすすめします。
メリット
- 複数デバイスから利用可能
- 場所の制限なし
- 低コストで利用可能
デメリット
- 導入時に手間・コストがかかる
- 盗難・故障のリスクあり
- セキュリティリスクあり
外付けHDD
外付けHDDは、USBケーブルで接続して使うハードディスクです。通販などで手軽に購入可能であり、メンテナンス代や月ごとの利用料金は発生しません。容量やサイズなどのバリエーションも豊富です。
企業において外付けHDDは、主に機器に内蔵されているHDDの空き容量が不足した場合などに利用されます。データの転送もスピーディーに行われ、機器の持ち運びも可能です。
USBケーブルを接続すれば簡単に利用でき、NASからのバックアップもNASと直接接続して行います。一方、USBケーブルを使用するため、一度に接続できるのは一台の機器だけです。複数のパソコンでファイル・フォルダを共有することはできません。
NASと同じく、本体が故障した場合には、データが失われる恐れがあります。一般に外付けHDDの耐用年数は内臓HDDよりも短い傾向があり、3~5年ほどとされています。使用状況や機種によっても耐用年数は大きく異なりますが、故障のリスクは常に意識しましょう。
経年劣化による故障以外にも、災害や盗難のリスクがある点も押さえる必要があります。外付けHDDは軽量であり、簡単に持ち運びできるため、それらへの対策もとりましょう。
メリット
- 手軽に購入・利用可能
- 低コストで利用可能
- データの転送速度が速い
デメリット
- 利用場所・条件に制限あり
- 盗難・故障のリスクあり
- データ共有不可
クラウドサービス
クラウドサービスは、インターネット環境があればどこからでも使用可能なオンラインストレージサービスです。パソコンやスマートフォンをはじめとするデバイスからアクセスでき、ファイル・フォルダの共有や編集が可能です。
NASから直接、もしくはパソコンなどから自動でバックアップが行われます。サービス提供会社がバージョンアップやメンテナンスを行ってくれるため、運用する労力はかかりません。機器を購入・設置する必要はなく、契約すればすぐに利用開始できます。
無料のサービスもありますが、一定のデータ容量を超えると、基本的に毎月利用料金を払わなければなりません。利用人数やデータ容量ごとに料金プランが用意されています。データ容量を変更したい場合に機器を買い替える必要はなく、ただプランを変更するだけで済みます。
インターネットを介したサービスであるため、クラウドサービスに盗難のリスクはありません。ただし、インターネット回線が落ちた場合や、オフライン環境では使えないことを押さえましょう。
メリット
- 複数デバイスから利用可能
- どこからでもアクセス可能
- 盗難のリスクなし
デメリット
- 毎月利用料金がかかる
- オフラインでは使用不可
3種類のバックアップ方法
NASのバックアップをするにあたり、いくつかの方法があります。フルバックアップ、増分バックアップ、差分バックアップの3種類です。それぞれの方法の概要・特徴や、メリット・デメリットについて解説します。状況に応じて、もっとも適切なバックアップ方法を選択しましょう。
フルバックアップ
フルバックアップはすべてのデータのバックアップをする方法であり、1回のリストアですべてのデータを保存・保管できます。フルバックアップには多くの空き容量が必要です。
初めてのバックアップは、必ずフルバックアップです。フルバックアップの回数を重ねるにつれてデータ量は増えるため、処理にかかる時間は長くなります。
バックアップ時にはサーバー処理に負荷がかかるため、業務にも影響が生じかねません。あまり効率的ではないため、実行の頻度は少なくするか、時間帯を工夫するとよいでしょう。
増分バックアップ
増分バックアップとは、前回のバックアップ以降に増えたデータの分だけバックアップをする方法です。他のバックアップ方法よりもバックアップに必要な空き容量を抑えられるうえ、時間もかかりません。定期的にフルバックアップを行えば、増分バックアップにかかる時間をさらに短縮可能です。
完全リストアを行う場合は、初めてのフルバックアップ以降のすべての増分バックアップを順番にリストアするため、時間・手間がかかります。
一部のデータが破損していた場合や途中のファイルを削除した場合、以降のデータを完全にはリストアできません。フルバックアップを行うことで増えたデータのエラーをリセットできるため、対策として定期的に行いましょう。
差分バックアップ
差分バックアップは、初回のフルバックアップがされた時点と比較して、追加・変更されたファイル・フォルダを毎回バックアップする方法です。増分バックアップよりは、バックアップ先の空き容量が多く必要です。
バックアップをするたびに時間がかかるようになるため、フルバックアップを定期的に行い、時間の短縮を図りましょう。
増分バックアップと異なり、差分バックアップでは一部のデータが破損やエラーが生じても、あまり影響は受けません。フルバックアップ時のデータと復元したい時点の差分データがあれば、リストア可能です。しかし、初回のフルバックアップデータにエラーがあった場合には、リストアできないので注意しましょう。
NASのバックアップをする際のポイント
NASのバックアップをする際には、どのようなポイントに着目するとよいでしょうか。
データを重要度別に分ける
すべてのデータを毎回バックアップするのは効率的ではありません。膨大な空き容量が必要になり、機器を購入するコストもかさみます。そこでデータに優先順位をつけてバックアップをするのが得策です。
まずは、データを重要度別に分類・整理しましょう。重要かどうかの判断基準は企業により異なりますが、誰でも、いつでも入手可能なデータの重要度は、通常あまり高くありません。
しかし、会社の経営にかかわる情報や顧客情報などは、厳重な保護・保存が必要です。また、再入手が困難なデータは、万全の対策をとることが求められます。
重要なデータは頻繁にバックアップを取り、保管場所にも配慮して丁寧に扱うことが必要です。また、データの重要性は時間経過により変化するため、定期的にデータの見直し、整理を行うとよいでしょう。
時間や手間を短縮して、効率的にバックアップをすることが大切です。
複数のバックアップ方法を組み合わせる
現在、多くのNASにはRAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks)というシステムが設定されています。RAIDとは、複数のHDDを組み合わせることで仮想的にひとつのHDDのように利用し、冗長性を向上させる技術です。さらに、RAIDは転送されたデータを複数のHDDに分散して書き込むため、データ書き込みが高速で行われます。
冗長性とは、システム障害に備えて予備となる機器・機材をすぐ使えるように準備しておくことです。冗長性を持たせることで、システム障害が発生してひとつのHDDが破損しても接続先が切り替わり、システム継続・運用できる可能性が高まります。
冗長化の方法やデータの分散方法によってRAIDにはいくつもの種類・レベルがありますが、一般的にレベルが高度なものほどコストは高くなります。
しかし、データの安全性の点からはRAIDを利用するだけでは不十分です。レベルによっては、ひとつのHDDが破損すればすべてのHDDに障害が発生する恐れがありますし、削除されたデータをリストアできない場合もあります。ディスクの冗長性は確保されますが、ウイルス感染や災害による被害には対応できません。
そのため、複数の方法を組み合わせ、連携させるとより効果的で安定したバックアップができます。
321ルールと呼ばれる、バックアップをする際の考え方があります。
- データはコピーして3つもつこと
- 2種類の媒体でバックアップをしたデータを保存すること
- バックアップをしたデータのひとつは異なる場所で保存すること
この考え方を採用し、NASと外付けHDD、NASとクラウドサービス、あるいはすべての機器・サービスを利用するなど、データの性質や目的別に、もっとも安全性が高い方法を検討しましょう。
業務で利用するデータや情報は、基本的にNASにおけるバックアップをおすすめします。機密情報や顧客情報などの紛失できないデータは、クラウドサービスでバックアップをするとよいです。ただし、情報漏洩のリスクがあるため、具体的な対策をとりましょう。
NASのバックアップをする際の注意点
NASのバックアップをする場合には、バックアップの時期、確認すべき事項、機器の保管先など3つのポイントを押さえましょう。
バックアップは繁忙期を避けて行う
バックアップ処理は、長時間かかる場合もあります。データ量によっては、数日かかるかもしれません。そのため、実施する時期や時間にも気をつける必要があります。特に、繁忙期の実施は控えましょう。さらに、バックアップ処理中のデータは使用できないため、仕事で使う時期や時間帯は避けたほうがよいです。
バックアップの種類・方法によって、時間や手間が変わるため、スケジュールを決めて実施するとよいでしょう。平日の夜に増分・差分バックアップを、休日にフルバックアップを行うなどの工夫をすれば、効率的にバックアップをすることが可能です。
エラーに備えてログを確認する
バックアップは、必ず成功するとは限りません。そのためバックアップログを確認して、エラーが表示されていないかを確認しましょう。コピーに失敗したデータは、バックアップを取り直す必要があります。
エラーログの種類により失敗の原因がわかる場合も多く、今後の対応にもつなげられるため、バックアップ終了時にはログの確認をすることをおすすめします。
バックアップ先機器の保管場所に注意する
NASのバックアップ先機器の保管にも配慮しましょう。クラウドサービス以外の、NASや外付けHDDを紛失・破損しないように保管することが大切です。
故障のリスクを減らすために、ホコリやゴミなどが入らないように保管方法を工夫しましょう。ホコリが溜まっていたら、速やかに取り除いてください。
飲み物がこぼれない場所に置くなど、保管場所にも気をつけましょう。盗難の恐れがある場合は、棚などの鍵がかかる場所に保管するとよいかもしれません。
水害や火災、地震などで高所から落下して破損するリスクもふまえ、厳重な管理が大切です。それでも心配な場合は、保険としてバックアップ機器を本社・別支店など複数の場所に分散しておくとよいでしょう。機器のひとつを遠隔地で保管すれば、災害が起こった場合にもデータは保持できます。
まとめ
データ保護やセキュリティ関連の事故防止のためにも、NASデータのバックアップは不可欠です。NASのバックアップ先は、NASをはじめ、外付けHDDやクラウドサービスがあり、目的・用途に沿ったものを選びましょう。バックアップ方法としてフルバックアップ、増分バックアップ、差分バックアップが挙げられます。各方法の特徴を理解し、適切な方法を選びましょう。NASのバックアップをするならば、データの優先度を決める、いくつかの方法で保存するといった工夫が大切です。バックアップをする時期や、機器の保管場所にも注意しましょう。
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